特集 : アジア映画は静かに、しかし強烈な存在感で私を魅了する

〜ありがとう!シネマート六本木〜

好きな映画は必ずしも優れた名作とは限らない


私が映画ファンを自覚する前の話。

ある日突然ある映画が気に入ってしまい、その作品が上映されている期間はとにかくできるだけ映画館に行こう、と思ったことがある。非正規で働いている私にはあまり自由な時間がなく、経済的にも豊かとは言えなかった。(今もだけど…)だけど、どうしてもスクリーンで観たかった。これが映画貧乏か!と自分自身を嗤いながらも、映画館に行きたい気持ちをどうしても抑えることができなかった。

上映してくれる映画館を根気強く探しては足を運ぶ日々。その作品のスクリーン鑑賞が30回を超えた時、私は鑑賞回数を数えるのをやめた。だからもう何回観たかわからない。もちろんDVDも購入したが、やはりスクリーン鑑賞にはかなわない思っている。

今だったら同じ作品を何回も観たりはしないだろう。そこまでどっぷりと作品に浸かることのできる時間や心の余裕がない。ものすごいタイミングで偶然その映画と出会い、映画に集中することができた。貧しかったが、とても幸せな経験だったと言える。

しかし、その映画を人に紹介できるかというと残念ながらできない。正直「優れた名作」とは言えないからだ。すごく悪いとも言えないが、否定的な意見(設定がありえない、など)も少なくないので、その映画が好きだとはちょっと言いにくい。

でも、私の胸には響くものがあった。
自分の過去の記憶の中に、似たようなシチュエーションがあり、それが蘇ったのだ。ハッピーな結末ではなかったので長い間忘れたふりをして生きてきたけれど、その映画に出会って思い出したのだった。

ありえない設定をいちいち説明して人に理解してもらおうとは思わない。そんな忘れかけていた遠い記憶が、ある日突然スクリーンに映し出されてしまった驚きといったら! それは日本語ではなかった。アジア映画だった。その映画は静かに、しかし強烈な存在感で私を魅了した。


f:id:chirugonsam:20150507114840j:plain シネマート六本木の椅子


誰にでも愛される映画VS「&more」


この世には「その他大勢」がたくさんある。

非正規で働く私は、自分をいつも「その他大勢」だと思っている。その他大勢にとってのリアルはやっぱり「その他大勢」であり、なんと映画にも「その他大勢」に親近感を感じてしまう。

思えば昔、私が30回以上もスクリーンで観たあの映画も、映画界の花形(?)ではなかった。人気俳優が出演して話題にはなったが、特段映画祭で話題になりそうな映画でもない。
映画祭で賞を取るような映画は、誰にでもわかりやすく、誰もが感動する、誰にでも愛される映画、だ。

この世に「その他大勢」がたくさんあるように、映画でも「その他…」と呼ばれてしまう作品がある。

その他大勢には価値がないのだろうか。

私はそうは思わない。
大勢の中にこそ、自分にぴったりマッチする映画が隠れていると信じている。

だからこそ、私は誰もが愛さないかもしれない映画を丁寧に観たいのだ。


ありがとう!シネマート六本木


シネマート六本木にはどれだけお世話になったかわからない。

韓流シネマフェスティバルが企画されていた頃は、まだDVD再生機が我が家になく、無料動画(web)などの記憶もほとんどない。この10年間、映像を取り巻く環境が本当に色々変わった。

シネマート六本木は韓国映画ばかりでなく、アジア地域の映画を集めて次々に上映。俳優やロケ地等の情報もマメに紹介してくれたり、レディースデーなど様々なファンサービスでもお世話になった。

シネマート六本木が閉館なんて信じたくないが、考えてみると映画にお金を使えるアジア映画ファンは少ないので(本当にお客さんが少なかった)、致し方ないのかもしれない。私自身もサービスデー以外ではなかなか利用できなかったので、申し訳ない気持ちで一杯だ。

アジア映画は人気がないわけではない。チケットが高くて気軽に映画館に通うのが難しいのだ。同じ料金を払うなら、アジア映画以外の映画を選ぶ人が多いのではないかと思う。料金が安ければガンガン観るけれど、そうでなければ観る作品を選ぶようになるし、鑑賞数も限られてくる。

終盤にシネマート六本木はどんな作品を上映するのかが気になって、HPを見た。もしかしたら上映スケジュールを決める人が、お気に入りの作品を上映するかもしれないと思ったのだ。そしてビックリ。なんと「私の映画」(思い入れのある、自分にとって大切な作品)が後期に上映されていたのだ…


結局残業で映画館に行けないまま、今週が過ぎた。
観ることはできなかったけれど、この一週間、「私の映画」のことを考えながら、再びフワフワと過ごした。


ありがとう、シネマート六本木。
「私の映画」と共に、「私の映画館」だったシネマート六本木のことも、記憶に留めておきたい。